地域への人の誘致・移動の促進に関する研究会 とりまとめ 平成19年3月
1.はじめに
人口減少・高齢化が進展する中で、大都市圏にはなお様々な機能の集中が進む一方、地方圏においては地域の活力の維持が徐々に困難となり、地域によっては社会的諸サービスの維持の問題に直面しているところもある。
多様な価値・魅力を持つ地域を形成し、また持続可能なものとしていくためには、地域づくりの担い手となる人的資源が特に重要であり、都市と農山漁村との間をはじめ、我が国の各地域間での交流を進め、様々な人の出会いを創出することが必要である。
また、都市に生活の本拠を構える者にとっても、ひとつの地域にのみ生きるのではなく、これまでと異なる地域、異なる環境に身を置き、自らが培ってきた経験や専門的能力を地域社会に還元し、あるいは、自らの新たな可能性を追求することにより、働き方、学び方、暮らし方の複線化を図り、充実した人生を実現することが可能となる。
このため、「定住人口」をはじめ、「二地域居住人口」、「交流人口」など多様な人口の視点を有した地域への人の誘致・移動を促進し、地域に対し関心を持ち、愛着を感じる人を増やすことが我が国の大きな課題となっている。
地域への人の誘致・移動の促進に関する研究会では、このような観点から、地域への人の誘致・移動の促進に向けた課題を明らかにするための調査・事例収集等を実施するとともに、5回にわたる研究会の開催を通じてその課題の解決、あるべき施策について検討を重ねてきた。本とりまとめでは、その成果を集約するとともに、今後これを踏まえた一層の施策の検討・実現を期待したい。
2.地域への人の誘致・移動をめぐる背景と視点
(1)定住、二地域居住に対する願望
我が国の総人口は2004年の約1億2,780万人をピークに減少局面に入り、今後本格的な人口減少社会を迎える。これまで「定住
人口」の増加を目指した取組が多くの地域で行われてきたが、人口減少社会においては、定住人口という視点に加え、都市住民が農山漁村等の他の地域にも同時に生活拠点を持つ「二地域居住人口」、観光旅行者等の「交流人口」、インターネットを通じた「情報交流人口」といった、多様な視点による地域への人の誘致・移動を促進することが必要となる。
都市住民に対するアンケートによれば、農山漁村への定住の願望を持つ割合は男性25.7%、女性16.3%、さらに、二地域居住の願望では、男性40.3%、女性35.4%に達している。この結果からは、現住所から離れ、これまでの人間関係やコミュニティを失いかねない定住よりも、都市の現住所に拠点を持ちつつ農山漁村等の他の地域にも生活拠点を持つ二地域居住の方が実現につながりやすいことが見てとれる。
(2)広がりつつある人の誘致・移動のうねり
二地域居住については、都市地域の居住者の願望が高く、定住とともに、現在退職期を迎えている団塊の世代を中心に大きな動きになりつつある。我が国の高度経済成長を牽引してきた団塊の世代は、就業を中心とする生活のみに縛られず、自己実現に対する高い情熱を失わずに自由なライフスタイルを実行し、社会に新たな潮流を創り出すエネルギーと豊かさを備えている。そして、彼らが退職時期に差しかかった現在、既に様々な形で生活の本拠とは異なる地域に関わっていこうとする事例が見られるところである。
また、各地の地方公共団体においても、相談窓口の整備、体験・研修ツアーの実施、空き家の活用など、地域外からの人の誘致に関して様々な取組を講じており、例えば都道府県レベルでは、平成18 年度は42の道府県において団塊世代等の定住、二地域居住の受け入れを促進するための事業が実施されるなど、地域にとっても重要な政策課題となっている。
また、誘致・移動してきた人を人材として活用する視点も重要である。地域にとって、地域外部の人材は、地域内にない経験・知見・ノウハウの提供、外部の視点での地域資源の評価など、多面的な役割を果たしうる存在である。またNPOをはじめとする組織の経営ノウハウや情報通信技術の活用能力のように、都市には多くの人材がいる分野でも、他の地域にとっては貴重な人材である場合も少なくない。このため、地域外部の、専門的能力を持った人材を積極的に活用すると
いう視点による人の誘致・移動を進めることが求められている。
このような中で、国土審議会計画部会において現在審議が進められている国土形成計画の全国計画においても、
?多様な形での地域への人の誘致・移動の促進
?地域外部の専門的人材を活用した地域活性化
が、今後の地域づくりにとって重要な課題であるとの議論が行われている。
団塊の世代を当面のメイン・ターゲットに据えながら、さらに若年世代や現役世代も視野に入れ、それぞれの地域の状況を踏まえつつ、我が国全体として人の誘致・移動の大きなうねりを創り出していくことが重要である。
3.地域への人の誘致・移動の促進にあたっての課題
地域への移動については、都市住民の潜在的なニーズは高いことが示されているが、一方で、地域の情報が入手しにくいこと、適切な住宅の確保が困難であること、地域コミュニティへの参加が難しいこと、長期休暇が取りにくいこと等が阻害要因となって、実施に至らないケースが多いとされている。
今回実施した移動経験者、移動希望者等を対象とした調査においても、勤務、旅行等により未知の地域の魅力に触れ、地域への再訪問、長期滞在、就業体験などを経て移動を実行するケースが多いが、移動を志してから実際に移動を実行するまでの各段階で、以下のような課題に直面していることが判明した。
?移動目的に関する課題
どのような人材を誘致しようとしているのか明確なコンセプトを有している地域が少なく、移動の目的に対応する情報が整理された形で提供されていないため、移動の目的にあった地域を効率的に探すことが困難である。
?地域選択に当たっての課題
生活コストを含めた地域の多様な生活情報が提供されておらず、現地の生活が具体的にイメージできない。また、地域住民との交流の機会がないため、地域に受け入れられるかどうかについて確信が持てない。
?検討段階での課題
市町村単位で見れば、体験ツアー等を実施する地域は限られており、地域の実情を知る機会が限定されている。また、一元的な情報の入手が困難であり、様々なチャンネルを利用せざるを得ず、時間と手間が必要になっている。
?移動準備段階での課題
移動先での生活の基盤となる住宅について、コスト、質等の点で希望に添う物件が少ない。また、フルタイム以外のスポット的な就業の情報が乏しい。
?移動後の課題
実際に移動した後も、経済上、あるいは、健康上の心配事など、将来に対し不安が付きまとう。また、自動車の運転ができなくなった場合には生活自体が困難となる。
これらの課題を克服し、人の誘致・移動を促進するため、地域において様々な取組・施策を積極的に講じることが求められている。特に、的確かつ一元的な情報発信を可能とする仕組みと、移動先における適切な生活の基盤を確保することが重要な課題となっていることが明らかになった。
4.人を誘致しようとする地域における取組のあり方
(1)地域からの情報発信等に係る戦略の構築
地域への人の誘致・移動を促進するためには、まず、誘致しようとする地域での戦略的な取組を行うことが必要である。地域での取組にあたっては、以下の6つのポイントが特に重要であり、これを踏まえつつ実施されることが求められる。
?コンセプトメイク
地域の強みはどこにあるかを検討し、定住、二地域居住などの居住形態、年齢層、求めるライフスタイルなど、誘致する人のターゲット層を明確にするとともに、誘致の理念をひとことであらわした「コンセプト」を設定することで、戦略的な取組につなげていく必要がある。
?地域特性・地域資源の発掘・活用
?で設定したコンセプトをさらに深め、地域特性、地域資源の再評価と活用を行いつつ、移動希望者への情報発信やサービス提供、施設整備の方針など、誘致に向けた具体的なシナリオづくりを行う必要がある。
?体験・研修プログラムの提供
地域への移動希望者に対して地域の実態を事前に十分理解してもらうために、地域への訪問レベルのものから生活環境を体験できるものまで、多様な体験メニューや体験プログラムを提供する必要がある。また、地域で農業等を行うことを希望する者に対しては、必要な技能を習得させるための適切な研修プログラムを提供する必要がある。
?ワンストップ窓口の設置・運営
地域における体験・研修プログラム、住宅、就業・活動に関する情報など、移動に向けた各段階で必要な多様な情報を集約・一元管理して提供するワンストップ窓口機能が地域にあることが必要である。
また、このような窓口が広域連携を行うことにより、より移動希望者のニーズにあった地域を適切に紹介することにつながる可能性がある。
?受入態勢の構築
地域へ移動してきた人と日常的に接触し、コミュニティをともに構成するのは地域住民であることから、行政のみによる誘致となることなく、地域住民やコミュニティ、NPOなど地域の多様な主体が緩やかに組織化された取組のもとで、移動の検討段階から移動後を含めての一貫した受入・支援体制を確立する必要がある。
?プロモーション
地域への人の誘致のための情報発信は、地域のコンセプトに応じて、ターゲット層に向けた適切なプロモーションにつながるものである必要がある。
(2)地域に賦存する空き家の活用
定住や二地域居住を促進するためには、地域における居住や滞在の基盤となる生活拠点の確保が不可欠の条件となる。特に定住や二地域居住を始める段階においては、基本的な居住機能を備えた住宅が低廉なコストにより調達できることが必要である。
そのためには、地域に賦存する空き家の活用可能性に着目し、地域に移動してこようとする者がこれを利用するための様々な条件整備を進めていくことが期待される。
平成15 年住宅・土地統計調査(総務省統計局)によると、同年における我が国の空き家の総数は約660万戸、うち地方圏の空き家は約330万戸とされている。今後、これらのストックを適切に利活用していくことが住宅政策の観点からも重要な課題となっている。
一方、それぞれの地域において実際に利用できる空き家がどの程度賦存しているかについては、行政においても民間においても正確には把握されていないのが実情である。
また、利用できるストックであっても、所有者が地域外の人物に家を貸すことに不安を持つ、あるいは、自らの将来の利用を留保しておきたい、等の理由により空き家の活用が進まないという状況もある。
地域の行政が積極的に空き家利用を進めるという姿勢を持つこと自体に、空き家の利活用を促す効果があるとも考えられ、外部から人を誘致しようとする地域にあっては、空き家についてこれを貴重な地域資源と評価し、その賦存状況、状態、他への貸与に関わる所有者の意向等について積極的に把握する活動を開始すべきである。それとともに、地方圏の空き家を適切に利活用することを住宅政策の新たなテーマとし、行政と民間との協働により空き家の活用のための仕組みについて様々な工夫が図られ、空き家活用の多様なモデルが生まれることを期待する。
5.総合的な情報提供・仲介機能を持つ「プラットフォーム」の構築
(1)「プラットフォーム」の必要性
地域への人の誘致・移動にあたっては、誘致しようとする地域の情報発信と、移動しようとする人の情報収集とが円滑に行われる必要がある。
しかし、住宅や就業・活動に関する情報は、都市・地域それぞれの中において需給のマッチングをさせる市場は存在していても、都市と地域とをつないで情報提供・仲介させる仕組みに乏しい。
また、地域への移動にあたっては、地域情報、住宅、生活環境、就業・活動に関する情報など、多業種にわたる多様な情報が必要であり、移動に至るプロセスの面からみても、地域選定から移動準備に至るまでの各段階ごとに必要な情報はさまざまである(多様な情報の必要性)。さらに、分野によっては民間事業者がきめ細かな情報持っている場合があり、民間の情報が適切に提供されることが求められ(民間情報の必要性)、また地域のイベントなどの最新の情報が常に提供されることが重要である(情報更新の必要性)。
これに加え、地域への人の誘致に向けてのウェブサイト等による情報発信は、さまざまな地域から大量の情報が提供され、各地域の特色が埋没してしまう傾向もあるほか、全国レベルで各地域の情報発信を行うウェブサイトについては、さまざまなテーマごとに数多く設置されており、移動希望者にとって効率的な情報収集が困難となっている(情報整理の必要性)。
このような観点から、都市と地域とをつなぎ、民間情報を含めた多様かつ新鮮な情報を整理された形で提供・仲介することができるシステムとして、総合的な「プラットフォーム」を整備する必要がある。
(2)「プラットフォーム」に求められる機能
「プラットフォーム」は、多くの関係者が時間・場所にとらわれずに利用でき、かつ、上記の必要性を満たすために、情報通信技術を最大限に活用したシステムであることが必要である。具体的には、
?民間情報を含めた多様な情報が整理されて提供されるよう、統一的なフォーマットに基づいた情報の登録・提供を行うシステム
?登録情報の提供にとどまらず、検索エンジン等を用いてインターネット上の関連情報を「プラットフォーム」が自ら探しに行くシステム
?最新の情報が常に提供されるよう、古い情報を排除する仕組みのシステム化
などが考えられる。
また、GISを活用して地図情報と併せた地域情報の提供や、ブログやSNSを活用した都市住民と地域住民の双方向的なコミュニケーションを図ることも考えられる。一方で、プラットフォームは地域へ移動しようとする主体が抱える、移動に当たっての様々な不安や心配について、それを除去するものである必要がある。したがって、単純にウェブサイトの機能を持てば足りるというものではなく、特に、住宅事情や就業機会の有無等、地域への移動の可否に直接関わる事項については、必要に応じ、地域の実情に精通する人材がきめ細やかに対応することが可能となるような運営が期待される。
実際、今回の調査においても、地方の不動産について価格相場がつかみにくい、学校の統廃合や医療機関の存続について情報が乏しい、スポット的な就業機会に関する情報が得られない、等の声が聞かれた。
プラットフォームの構築に当たっては、移動しようとする側のそのようなニーズについても視野に入れる必要がある。今後は、具体的なプラットフォームの試行的実施に向けて、システムの基本構想、基本設計等を進めていくとともに、民間活力をも活用した運営手法等についてさらに検討を進めることが求められる。
6.費用の軽減に向けた環境の整備
地域への移動を実施する場合、移動先での居住・滞在に要する費用や移動自体に要する費用をいかに低廉なものとするかも大きな課題である。特に、二地域居住のように複数地域間を頻繁に往復するライフスタイルの場合、多額の交通費が実施に向けての大きな阻害要因となると考えられる。
公共交通の運賃、料金についていえば、同じ区間や路線を頻繁に利用する者、いわゆるヘビーユーザーに対して運賃等を割り引くということはそもそも合理的理由があり、民間の交通事業者も多くこれを採用している。
現在の実態としては、航空会社のほとんどは、国内航空路線のほぼ全路線において頻繁利用者向けに回数運賃を設定している。また、JR各社においては、新幹線区間や一部在来線区間に関しては頻繁利用者向けの回数券を発行しているが、通常は200Km 以内の区間における普通乗車券部分のみの回数券の設定である。
これを一歩進め、移動の際や滞在中における自動車の利用も含め、様々な交通モード、様々な区間について、交通費の割引が行われるためには、二地域居住等の意義やそれを推奨すべきライフスタイルとすることについて国民の間でコンセンサスが確立するとともに、交通費の割引と地域への移動の実施との間の因果関係の分析や、割引コストを誰が負担すべきかなどについて、今後、総合的な検討を進めるべきである。
さらには、移動先における居住・滞在の費用についても出来る限り軽減されることが望ましい。既にいくつかの市町村において導入されている公的助成や、地域の協力による初期費用、維持費用等の軽減、さらには、生活環境の整備や生活支援サービスの提供など、多角的な検討が行われることが期待される。その際、地域側に生じるコストの負担のあり方についても、様々な方策について議論が行われるべきである。
これらの検討を進める際、避けて通れない課題が「地域への移動の真の実践者であること」を誰がどうやってオーソライズするか、という点である。
この点について、解決に向けた検討の一環として、二地域居住者を一定の要件のもとに登録し、二地域居住者であることを明らかにする仕組みの構築を考えるべきである。
そして、このような二地域居住者把握システムの構築にあたっては、
?どの程度頻繁に二地域間を行き来することをもって二地域居住と考えるかについての定義の明確化
?二地域居住を実際に行っていることの証明の方法の確立
が課題となるものと考えられる。
7.おわりに
人口減少社会が現実のものとなり、これまでのような地域間での「人口の取り合い競争」だけでは、地方のほとんどは都市における諸機能の集積に太刀打ちできずに敗退し、結局は我が国国土の全体を疲弊させてしまうことになりかねない。将来にわたり持続可能な地域を創るためには、地方と都市とが互恵の視点に立ち、相互補完的な関係を築いていく必要がある。
そのような中で、今日の我が国繁栄の礎を築いてきた団塊の世代が現役を卒業し、日々の仕事に縛られない世界に飛び出でていこうとしている。そして、いまだ社会への関心にあふれ、人生のステージをさらに一段高いレベルに上げていこうとするこの世代の中から、これまでの暮らしの拠点とは異なる地域に新たな暮らしの拠点を求めようとする動きが、徐々に、しかしながら確実に芽生え始めている。
この動きを、他の世代の働き方、学び方、暮らし方にも及ぼしながら、社会の大きな潮流となるまでに育て、持続可能な地域づくりの実現に結びつけていくことができれば、人口減少時代への移行という大きなターニング・ポイントを乗り越えることも可能となる。そのような視点から、地域への人の誘致・移動の促進のため、多様な主体による取組を今後さらに進めていく必要がある。
特に、国及び地方公共団体においては、その意義について国民各層に広くアピールするとともに、様々な条件の整備に努めていく必要がある。関係方面が適切な役割分担の下に一丸となって、十分に連携を図りながら取り組んでいくことを切に期待する。

